SR400ステップダンパー自作計画 第5回|KE-1600の耐油・耐薬品性を検証
第4回はこちら↓
SR400ステップダンパー自作計画 第5回

SR400の振動を少しでも軽減できないか――。
そんな疑問から始まった、純正ステップダンパーの自作計画。
これまで候補材料である信越シリコーン「KE-1600」を使用し、テストピースの製作や硬度測定、圧縮実験、後硬化による変化などを検証してきました。
前回の第4回では、KE-1600を150℃・30分間後硬化することで、硬度が約52Aから約70Aまで上昇することを確認。
前硬化・後硬化ともに強度にも大きな問題はなく、ステップダンパーの材料として期待できる結果となりました。
しかし、バイク用ゴム部品として使用するなら、もうひとつ確認しておきたいことがあります。
それが、
「オイルやガソリン、ケミカル類が付着しても大丈夫なのか?」
という点です。
そこで今回は、純正ステップダンパー・前硬化KE-1600・後硬化KE-1600の3種類を使い、油脂やケミカル類に接触させて、重量・硬度・厚みの変化を比較してみます。
これまでの開発経過
現在までの開発状況を簡単に振り返ります。
第1回
ステップダンパー自作計画スタート。
第2回
純正ステップダンパーの硬度・寸法・重量を測定し、自作用の材料を調査。
第3回
SR400実車のステップ取付部を測定し、純正ダンパーの構造や圧縮状態を確認。
第4回
KE-1600のテストピースを製作し、硬度・弾力・圧縮・後硬化による変化などを検証。
第5回(今回)
KE-1600の耐油・耐薬品性を検証していきます。
前硬化KE-1600の硬度に変化があった

本題に入る前に、前硬化KE-1600に少し変化があったので紹介しておきます。
最初に製作したテストピースは、7月28日の離型時に硬度を測定すると約52Aでした。
ところが約1か月後の8月30日に再測定すると、
55.5A
まで硬くなっていました。
150℃で後硬化していないにもかかわらず、約1か月で3~4Aほど上昇したことになります。
KE-1600自体の経時変化なのか、気温や測定条件による違いなのかは今回だけでは判断できません。
そのため、「KE-1600は常温でも時間経過で必ず硬くなる」とは断定できませんが、今回のテストピースでは製作直後と約1か月後で違いが確認できました。
今回の耐油・耐薬品試験では、この製作から約1か月経過した前硬化KE-1600を使用します。
今回の耐油・耐薬品試験について
今回検証するのは、バイク周辺で触れる可能性のある以下の5種類です。
- パーツクリーナー
- チェーンルブ
- エンジンオイル
- ブレーキフルード
- ガソリン
前硬化・後硬化KE-1600のテストピースをカットし、比較用として実車で使用していた純正ステップダンパーも同じように分割して使用します。
今回の比較には条件差があります


ここは今回の実験で重要な注意点です。
KE-1600は、最初に100均のカップへ注型して製作した円盤状のテストピースを使用しています。
そのため純正ステップダンパーとは、形状・厚み・表面積・体積などが異なります。
また、純正ダンパーについても新品ではなく、実車で使用していたものです。
油や薬品への浸漬では、試料の形状や厚みによって液体の浸透や膨潤の程度が変わる可能性があります。
つまり今回の試験は、新品・同形状・同厚みの材料同士を比較した正式な性能試験ではありません。
あくまで、今回用意した試料を同じ液体・同じ時間で比較した簡易実験として参考程度に見ていただければと思います。
また試験片が小さいため、硬度計やノギスによる測定にも多少の誤差があります。
パーツクリーナー

まずはパーツクリーナーです。
バイク整備では使用頻度が高く、ステップ周辺の清掃時などにダンパーへ付着する可能性があります。
ただし実際の整備では、長時間浸かった状態になることはほとんどありません。
そこで最初に通常使用を想定した吹き付け試験を行い、その後、厳しい条件として24時間浸漬してみました。
使用したのは、DCMの速乾タイプ・AZの遅乾タイプ。どちらもゴム対応品です。
試験前
| 試料 | 重量 | 硬度 | 厚み |
| 純正 | 2.15g | 58.5A | 14.3mm |
| 前硬化KE-1600 | 3.45g | 58.5A | 11.3mm |
| 後硬化KE-1600 | 3.68g | 72.0A | 12.7mm |
速乾・遅乾タイプを吹き付け
パーツクリーナーを吹き付け、約10秒待ってから軽く拭き取りました。
速乾・遅乾タイプともに、重量・硬度・厚みに大きな変化はありませんでした。
少なくとも今回のような、
吹き付ける → 少し待つ → 拭き取る
という一般的な使い方では、明確な影響は確認できませんでした。
パーツクリーナーへ24時間浸漬

続いて条件を厳しくし、遅乾タイプのパーツクリーナーへ24時間浸漬しました。
結果はこちらです。
| 試料 | 重量 | 硬度 | 厚み |
| 純正 | 3.45g | 32.5A | 17.7mm |
| 前硬化KE-1600 | 4.98g | 40.0A | 13.5mm |
| 後硬化KE-1600 | 4.77g | 67.0A | 14.5mm |
これはかなり大きな変化が出ました。
取り出した直後から試験片が大きくなっており、特に純正ダンパーは一回り膨らんだように感じます。
浸漬前と比較すると、
| 試料 | 重量変化 | 硬度変化 | 厚み変化 |
| 純正 | 約+58% | 約-43% | 約+23% |
| 前硬化 | 約+43% | 約-32% | 約+20% |
| 後硬化 | 約+29% | 約-6% | 約+13% |
すべての試料で重量・厚みが増加し、硬度が低下しました。
特に純正ダンパーは触っただけでも柔らかくなったことが分かり、かなりぶよぶよとした感触です。
一方、後硬化KE-1600も膨潤はしていますが、硬度低下は約6%と比較的小さい結果となりました。
パーツクリーナーから取り出した後は戻る?
続いて、取り出した試料が時間経過で元の状態へ戻るのか確認しました。
3種類とも日数の経過とともに重量・厚みが徐々に減少し、浸漬前の状態へ近づいていきます。
特に後硬化KE-1600の硬度は、
浸漬前71.0A → 直後67.0A → 1日後72.0A → 8日後71.5A
となり、硬度についてはほぼ元の状態まで回復しました。
前硬化KE-1600についても、重量・厚みとも徐々に回復しています。
一方、純正ダンパーは8日後でも浸漬前と比較して、
- 重量:約9%増加
- 硬度:約20%低下
- 厚み:約10%増加
となっており、まだ完全には戻っていません。
ただし、純正とKE-1600では試料の形状や厚みが異なります。
そのため、
「KE-1600の方が純正ダンパーよりパーツクリーナーに強い」とまでは断定せず、
今回の条件では後硬化KE-1600の変化が比較的小さかったという結果として捉えます。
チェーンルブ

続いてチェーンルブです。
ステップダンパーはチェーンに比較的近いため、走行中に飛散したルブが付着する可能性があります。
今回はAZのセミウェットチェーンルブを使用しました。
試験前
| 試料 | 重量 | 硬度 | 厚み |
| 純正 | 2.40g | 59.5A | 14.4mm |
| 前硬化KE-1600 | 3.48g | 60.0A | 11.3mm |
| 後硬化KE-1600 | 4.12g | 73.5A | 12.8mm |
10秒浸漬

まず約10秒間浸漬しました。
その際、試験片の周囲から**「シューッ」という音とともに泡が発生**。
KE-1600だけでなく純正ダンパーでも発生したため、今回の実験だけでは原因までは分かりません。
10秒後の測定では、3種類とも大きな変化は確認できませんでした。
チェーンルブへ24時間浸漬
続いて24時間浸漬します。
| 試料 | 重量 | 硬度 | 厚み |
| 純正 | 2.83g | 45.5A | 15.1mm |
| 前硬化KE-1600 | 4.01g | 51.0A | 12.0mm |
| 後硬化KE-1600 | 4.67g | 68.5A | 13.8mm |
パーツクリーナーと同じように、重量・厚みが増加し、硬度が低下しました。
浸漬前からの硬度低下は、
- 純正:約24%
- 前硬化KE-1600:約15%
- 後硬化KE-1600:約7%
となっています。
パーツクリーナーほどではありませんが、今回も後硬化KE-1600の硬度変化が比較的小さい結果となりました。
取り出した後の変化
7日後には重量が、
- 純正:2.83g → 2.43g
- 前硬化:4.01g → 3.51g
- 後硬化:4.67g → 4.14g
まで減少。
厚みもほぼ浸漬前まで戻りました。
少なくとも重量と寸法については、チェーンルブによる変化は時間経過とともにかなり回復する結果となりました。
ただし、試験後のチェーンルブを落とすためにパーツクリーナーを使用しているため、厳密にはチェーンルブだけの影響を確認した試験ではありません。
エンジンオイル

続いてエンジンオイルです。
通常、ステップダンパーへ大量に付着することはありませんが、オイル交換やオイルフィルター交換時などに垂れたオイルが付着する可能性があります。
10秒浸漬では、3種類ともほとんど変化なし。
続いて24時間浸漬しました。
| 試料 | 浸漬前 | 24時間後 |
| 純正 | 2.16g/56.5A/14.3mm | 2.32g/52.5A/14.4mm |
| 前硬化 | 4.00g/58.5A/11.4mm | 4.05g/57.0A/11.4mm |
| 後硬化 | 4.54g/72.0A/12.9mm | 4.61g/70.5A/12.9mm |
KE-1600は24時間浸漬しても、厚みにほとんど変化がありません。
重量増加も前硬化で約1%、後硬化で約2%程度。
硬度には数A程度の変化がありますが、今回の条件ではエンジンオイルによる大きな膨潤や寸法変化は確認できませんでした。
純正ダンパーではKE-1600より少し大きな変化が見られましたが、使用済み品かつ試料形状も異なるため、材料性能の差とは断定できません。
ブレーキフルード

続いてブレーキフルードです。
ステップダンパーへ頻繁に付着するものではありませんが、ブレーキ周りの整備時などを想定して試してみます。
24時間浸漬した結果はこちら。
| 試料 | 浸漬前 | 24時間後 |
| 純正 | 2.11g/58.5A/13.8mm | 2.12g/55.5A/13.6mm |
| 前硬化 | 3.76g/59.0A/11.2mm | 3.77g/58.5A/11.2mm |
| 後硬化 | 3.13g/73.5A/12.8mm | 3.14g/71.5A/12.8mm |
今回試した液体の中では、かなり変化が少ない結果となりました。
特に前硬化KE-1600は、59.0A → 58.5Aとほぼ変化なし。
重量・厚みもほぼ同じです。
後硬化KE-1600についても、大きな膨潤や軟化は確認できませんでした。
ガソリン

最後にガソリンです。
ガソリンは引火性が非常に高いため、他の液体と同じ24時間浸漬は行わず、実使用時に一時的に付着した状態を想定した短時間試験のみ行いました。
1分間接触
まず1分間接触させました。
| 試料 | 重量 | 硬度 | 厚み |
| 純正 | 2.15g | 51.0A | 14.0mm |
| 前硬化 | 3.81g | 58.5A | 11.3mm |
| 後硬化 | 3.17g | 72.0A | 12.8mm |
1分間では大きな変化はありませんでした。
そこで接触時間を10分間まで延ばします。
10分間接触
| 試料 | 重量 | 硬度 | 厚み |
| 純正 | 2.25g | 49.0A | 13.6mm |
| 前硬化 | 3.91g | 56.5A | 11.5mm |
| 後硬化 | 3.25g | 69.5A | 12.9mm |
10分後になると、すべての試料で重量増加と硬度低下が確認できました。
試験前との比較では、
- 純正:重量約6%増・硬度約8%低下
- 前硬化:重量約4%増・硬度約4%低下
- 後硬化:重量約3%増・硬度約5%低下
となっています。
ガソリン接触から2日後
次に2日後の状態を測定しました。
| 試料 | 重量 | 硬度 | 厚み |
| 純正 | 2.12g | 56.5A | 14.1mm |
| 前硬化 | 3.79g | 60.5A | 11.3mm |
| 後硬化 | 3.15g | 72.5A | 12.8mm |
10分接触直後に増えていた重量は、2日後にはほぼ試験前まで戻りました。
硬度についても測定誤差を考えれば、ほぼ元の範囲まで戻ったと考えられそうです。
今回の10分間という条件では、
一時的に重量増加・軟化が起こるものの、時間経過とともに回復する傾向
が確認できました。
ただし、あくまで短時間接触の結果であり、長時間ガソリンへ浸漬した場合の耐性を示すものではありません。
5種類の試験結果を比較

ここまでの結果をまとめてみます。
※パーツクリーナー・チェーンルブ・エンジンオイル・ブレーキフルードは24時間浸漬、ガソリンのみ10分間接触です。
| 液体 | 純正 | 前硬化KE-1600 | 後硬化KE-1600 |
| パーツクリーナー | 大きく膨潤・軟化 | 大きく膨潤・軟化 | 膨潤するが硬度変化は小さい |
| チェーンルブ | 膨潤・軟化 | 膨潤・軟化 | 比較的変化が小さい |
| エンジンオイル | やや変化 | ほぼ変化なし | ほぼ変化なし |
| ブレーキフルード | 変化小 | ほぼ変化なし | ほぼ変化なし |
| ガソリン※10分 | 一時的に変化 | 一時的に変化 | 一時的に変化 |
今回最も大きな変化が確認できたのはパーツクリーナー、次いでチェーンルブでした。
エンジンオイル・ブレーキフルードについては、KE-1600に大きな変化は確認できませんでした。
ガソリンは条件が異なるため単純比較できませんが、10分間では一時的な変化にとどまり、2日後にはほぼ元の状態まで戻っています。
前硬化と後硬化では違いが出た
今回特に気になっていたのが、「後硬化によって耐油・耐薬品性にも違いが出るのか?」という点です。
特に違いが分かりやすかったのが、パーツクリーナーとチェーンルブでした。
| 液体 | 前硬化 | 後硬化 |
| パーツクリーナー | 硬度約32%低下 | 約6%低下 |
| チェーンルブ | 約15%低下 | 約7%低下 |
少なくとも今回の条件では、後硬化KE-1600の方が硬度変化が小さい傾向となりました。
さらにパーツクリーナーから取り出した後も、後硬化品は比較的早く元の硬度まで回復しています。
前回の実験では、
- 純正:約61A
- 前硬化:約52~60A
- 後硬化:約70A
という違いがありました。
振動吸収を考えると純正に近い柔らかさの前硬化品も魅力的ですが、今回の結果を見ると、油脂やケミカルに対する安定性では後硬化品にもメリットがありそうです。
柔らかさを取るか、安定性を取るか。
実際のステップダンパーを製作するうえで、重要なポイントになりそうです。
純正よりKE-1600の方が耐油性に優れている?

今回の数値だけを見ると、KE-1600の方が純正ダンパーより変化の小さいケースが多くありました。
特に後硬化KE-1600は比較的安定しています。
しかし、「KE-1600の方が純正ダンパーより耐油性・耐久性に優れている」とまでは判断できません。
今回使用した純正ダンパーは新品ではなく、実車で使用していたものです。
さらにKE-1600は100均カップで製作したテストピースで、純正とは形状・厚み・表面積などが異なります。
また、今回確認したのは短期間の油脂・薬品への影響のみ。
実際のステップダンパーには、振動・長期間の圧縮・熱・雨水・紫外線・気温変化・経年劣化など、さらに多くの条件が加わります。
そのため今回言えるのは、
「今回用意した試料と試験条件では、KE-1600は使用済み純正ダンパーと比較して変化が小さい傾向だった」
というところまでです。
それでも、自作ステップダンパーの材料として考えるうえでは、かなり期待できる結果だったと思います。
今回分かったこと
今回の耐油・耐薬品試験では、KE-1600について以下のことが分かりました。
- 通常のパーツクリーナー吹き付けでは大きな変化なし
- 24時間浸漬するとパーツクリーナーでは明確に膨潤・軟化
- チェーンルブでも24時間後には膨潤・軟化するが、その後かなり回復
- エンジンオイルではKE-1600に大きな変化なし
- ブレーキフルードでもほぼ変化なし
- ガソリン10分接触では一時的に変化するが、2日後にはほぼ回復
- 後硬化KE-1600は前硬化品より硬度変化が小さい傾向
特に印象的だったのが、後硬化KE-1600の安定性です。
前回は「後硬化すると少し硬すぎるのでは?」という印象でしたが、今回の試験では、油脂やケミカルによる硬度変化が比較的小さいというメリットも見えてきました。
前硬化は純正に近い柔らかさ。
後硬化は油脂やケミカルに対して比較的安定。
それぞれ異なる特徴があり、どちらを実車用ダンパーに採用するか悩ましいところです。
なお、今回の試験は純正ダンパーとKE-1600で形状や厚みなどの条件が異なるため、純正材質との性能差を断定できるものではありません。
それでも現時点では、KE-1600をステップダンパーへ使用するうえで致命的と思える結果は確認できず、材料として期待できる結果となりました。
これで材料単体の検証はひと区切り。
次はいよいよ、実際のステップダンパー製作へ進んでいきます。
次回予告|ステップダンパーの型を製作
次回はいよいよ、純正ステップダンパーの形状を再現するための型製作に取り掛かります。
これまではKE-1600という「材料」について検証してきましたが、ここからは実際にステップダンパーの形にする工程へ進みます。
純正ダンパーの寸法をもとに原型を製作し、KE-1600を注型するための型を作っていく予定です。
果たして純正形状をうまく再現できるのか。
そして、これまで検証してきたKE-1600を使って、実際にステップダンパーを製作できるのか。
ステップダンパー自作計画、いよいよ実物製作編へ突入です。
第6回はこちら↓
現在準備中・・・
